Glicoでは、生活者の皆さまがそれぞれの「すこやかな毎日、ゆたかな人生」を送れるよう、社員全員が一丸となり取り組んでいます。この度、食品8ブランドにおける食塩量の見直しをおこないリニューアル。そこで、「おいしい食事のある人生を、すべての人に」と日々、研究・開発に取り組む担当者にインタビュー。塩分を調整しても“おいしい”その秘密に迫ります!
「おいしくて健康的な食生活」の実現に向けて、
どのような姿勢で取り組んでおられますか?
Glicoのパーパス(存在意義)に「すこやかな毎日、ゆたかな人生」という言葉があります。
私たちは、生活者の皆さまの健康に配慮しながら「おいしい」と感じていただける商品の研究・開発に取り組んでまいりました。そのような中、かねてから着目してきたのが、摂取しすぎると健康を損なうリスクのある「塩分」を調整することでした。
日本人の食塩摂取量の平均値は、1日あたり9.7gです(男性10.5g、女性9.0g)。※1
この10年間でみると、男女ともに平均値は減少していますが、世界保健機関(WHO)のガイドラインで推奨されている「1日あたり5g未満」を大きく上回っているのが事実です。
そこでGlicoでは、商品自体の塩分量を見直し、なおかつおいしく食べていただきたい、という考えに至りました。
1食あたりの食塩相当量がどれくらいなのか、いまいちピンとこない方や、「塩分は気になるけど、どうやって実践したら良いのか分からない」という方もいらっしゃると思います。そこで、シチューやカレーをはじめとした商品を「おいしいな」と味わっていただいているうちに、実はいつもよりも摂取する塩分量が調整できている、という結果になるよう研究・開発を重ねてきたのです。
じつは、塩分の過剰摂取以外にも、脂質や糖質の摂取過多など、私たちの食生活を取り巻く課題は多いです。健康寿命の延伸を実現するためには、企業独自の取り組みだけではなく、産学官が一体となって食環境を整える必要があるということで、2023年に「食環境整備推進のための産学官連携共同研究プロジェクト」が発足。医薬基盤・健康・栄養研究所と、複数の食品企業が連携する中、Glicoも参画。私も研究員の一人として参加させていただいています。このプロジェクトは、すべての人が意識せず、自然に続けられる健康でおいしい食生活の実現に向けて、食環境を整えるために必要な研究を行っています。
※1 厚生労働省 令和4年(2022)「国民健康・栄養調査」の結果より
「おいしさ」と「塩分の調整」を、両立できる理由を教えてください。
私の部署「健康イノベーション事業本部 商品開発部」は、“おいしさと健康”を具現化し、生活者のさまざまな困りごとや課題を解決できる、価値を生み出すことがミッションです。
じつは既存の商品の塩味を減らした際、全体的な味わいのバランスが崩れることが判明しました。
料理に含まれるすべての味には、口に含んだ瞬間に感じる「先味」と、食材を噛んでいるときの「中味」、口の中に余韻として残る「後味」があり、それらが味わいのリズムを作ります。
では、塩分はどこに効いているのだろう?と分析したところ、塩味を減らすことで先味・中味・後味の全ての味が弱く感じられ、驚いたことに、香りまで乏しくなったのです。
いっぽうで、新たな気づきも。塩味を減らすことで“素材の味”を感じやすくなりました。そこで、原材料を足したり引いたりするのではなく「素材本来の味を引き出す」という方向に、考え方を転換しました。そこで着目したのが3つの素材です。1つ目は、昆布や鰹節、鶏肉などから出る「だし」。2つ目はタマネギやニンニクなどの「香味野菜」。3つ目は、味わいにメリハリをつける「香辛料」です。
これら3つの素材の特性を、商品それぞれに組み合わせることで、塩味を減らしても、おいしく仕上げることができました。構想から商品化まで約2年、長い道のりでした。
なかでも味わいの土台に欠かせないのは、ずばり「だし」の存在です。
だしへのこだわりとは?
フランス語でだしを意味する「ブイヨン」と、和食の「だし」。それぞれの旨みを丁寧に引き出しました。具体的には3種のだし(①3段仕込みチキンブイヨン/②熟成ブイヨン/③一番だし)です。
❶ 3段仕込みチキンブイヨン
何が3段仕込みなのかをご説明しましょう。仕込みの1段目では、鶏ガラを長時間煮込み、肉感と旨みを引き出しました。2段目はニンジンやタマネギを加え、香味野菜の甘みと旨みをプラス。同じ香味野菜でも、香りが飛びやすいセロリは3段目に加え、短時間煮込みました。つまり、素材のおいしさが最も際立つタイミングを計算した上で3段仕込みにすることで、それぞれの素材の深いコクや香りを引き出しました。
❷ 熟成ブイヨン
ポークブイヨンをベースに、調理の段階で煮込みと冷却を繰り返します。すると、旨み成分が溶け合い、脂肪分と水分が均一に混ざり合う「乳化」が進みます。そして、まろやかなコクと豊かな風味を感じられる仕上がりに。
❸ 一番だし
和食で馴染みの深い「一番だし」には、4つの国産素材を使い(昆布、鰹節、うるめ鰯節、枯鯖節)、抽出温度や時間など製法にもこだわりました。昆布はグルタミン酸を含み、節類はグルタミン酸やイノシン酸を含むため「旨みの相乗効果」が実現しました。
丁寧に取ったブイヨンと一番だしを、商品それぞれの特性に合わせて用いることで、塩分を見直しながら、おいしさを実現しました。
どのような商品に、こだわりのだしや素材が使われているのでしょう?
まずは「クレアおばさんのビーフシチュー」を紹介させてください。
ビーフシチューは塩味を減らすことで、各素材の味わいは感じられるようになった反面、シチューとしてのコクに物足りなさを感じるようになりました。そこで、肉を焼いたり、煮たりしたときの香ばしさや旨みを感じられるブイヨンを合わせました。さらに、香り高いハーブを加えることで、まず「先味」の旨味と芳ばしい香りを感じられる設計に。そして、「3段仕込みチキンブイヨン」のコクを高める工夫をして、「中味」と「後味」に深い旨みが広がる味わいが実現しました。
いっぽう、「プレミアム熟カレー」は、塩味を減らすことで、熟カレー特有のコクのバランスが崩れているように感じられました。そこで、香辛料を増やして香りを増強。さらに「熟成ブイヨン」の味わいを豊かにしてコクを深めました。それらの味わいを閉じ込めた「香りのルウ」と「コクのルウ」からなる2段ルウが、おいしさのポイントです。
余談ですが「クレアおばさんのシチュー」と「プレミアム熟カレー」のシリーズは、1皿ずつの個包装になったキューブルウです。食べたい分だけ使えますし、保存にも便利です。また、「少しとろみが足りないかも…」なんてときにキューブを追加していただくことで、簡単に味の調整ができます。さらには、スープやパスタなどのアレンジ・レシピにもお役立ていただくことができます。
濃厚な大人の味わいが特徴のカレー「ZEPPIN」の味づくりにも苦労しました。塩分の調整を行うなかで「ZEPPIN」らしい味わいを損なうことなく、おいしさを高めるには?と試行錯誤。ブイヨンと香辛料の調整に苦労しました。最終的には香味野菜の風味を強化し、ブイヨンと香辛料と共にバランスよく配合。デュクセルソース入りの濃厚ペーストでコク深く、香り高く、風味豊かな味わいを実現しました。
※デュクセルソース=マッシュルームと香味野菜を炒めた、風味・コク付けのためのソース。
最後に「一番だし」を語らせていただくうえで欠かせない商品が「炊き込み御膳 とり五目」です。
4つの国産素材を用いた「一番だし」を用い、さらには10種の具材にも鰹節の旨みを染み込ませ、よりおいしく感じていただける工夫を行いました。お茶碗1杯分(150g)当たりの食塩相当量を1.1gに調整した、からだにうれしいおいしさです。
最後に、読者へ向けてメッセージを!
生活者の皆さまが、それぞれの「すこやかな毎日、ゆたかな人生」を送れますように。
商品の研究・開発はもちろん、Glico全体の創意工夫により「おいしさと健康」を両立させた商品を提供し続けてまいります。商品のパッケージを見ていただくとわかるように「おいしさ」への思いをお伝えして、実際に味わっていただくなかで、実は「おいしく塩分を調整できていた」という自然な流れが理想です。ご自身と家族が健康に過ごすことができますよう、私たちはこれからも挑戦してまいります。
家族全員が同じ食事を楽しめるように……という思いを込め、食品8ブランドの塩分の見直しを実践しました。ですので、ご高齢の方から、お子様がいらっしゃるご家庭まで、年齢を問わず味わっていただけたらと思います。ご自身はもちろん、家族の健康を大切にされているすべての方に、お楽しみいただきたいです。
吉田 風詩子
商品技術開発研究所
運動機能・代謝改善・母子栄養グループ
管理栄養士
新卒入社時はカレーなどの食品開発を担当。その後母子栄養研究の部署に異動し、現在は社外プロジェクトとの兼務を行いながら、おいしさと健康の両立について日々勉強中。
池田 紀子
健康イノベーション事業本部
商品開発部
入社以来、炊き込みご飯の素、カレー、シチュールウ等の商品開発を担当。さらにエニマクリン等の大腸検査食の商品開発にも携わっている。プライベートでは、二人の子供を育てながら、仕事と家庭の両立に奔走中。