TOP子育てコラム「親性脳って、知っていますか?」(後編)

子育て記事

2021.07.14

“親性脳”って知ってますか?(後編)
~パパがする子育てってこんなに大切~

 前回は、子育てに適した「親性脳」について取り上げました。育児に必要な親性脳の発達には男女の差はみられず、むしろ、個人差のほうが大きいこと、男性も育児を繰り返し「経験」することで、親性脳が発達し、より適切な育児行動を行えるようになることなどを教えていただきました。
後編にあたる今回は、どんな育児行動が「親性脳」を発達させるのかを具体的に理解したいと思います。
明和先生に教えていただきましょう!

>>“親性脳”って知ってますか?(前編)

親性脳の発達には、どんな「育児行動」が重要か?

― 育児に対する意欲や関心が高くない男性でも、親性脳を発達させるために効果的な育児行動はどのようなものになりますか。

 「オムツ替え」と「授乳」。この2つの営みは特に効果的です。なぜなら、これらの行動は、親子の直接的な身体接触をともなうからです。
オムツ替えや授乳の際、子どもはやさしく触れられたり抱っこされたりしながら、同時に、笑顔や声かけを経験します。授乳場面では、哺乳によって赤ちゃんの血糖値が上昇し、体の内部に心地よい感覚が生じます。さらに、身体接触はオキシトシンの分泌も高めますので、まさしく赤ちゃんにとっては心地よさがもっとも強く感じされる絶好の機会です。このタイミングで、親から向けられる笑顔や声は、体の心地よさと結びついて赤ちゃんの脳内に記憶されていきます。すると、親の笑顔を見たり声を聞いたりするだけで、心地よさや安心感を覚えるようになる。これが、いわゆる愛着形成につながっていくわけです。

― 男性がミルクをあげる場合でも、同様の効果は得られますか。

 もちろんです。「誰が授乳をするのか」は、関係ありません。なじみのある誰かが、赤ちゃんにやさしく触れながら授乳することが重要なのです。
 子どもが安心して任せられるなら、親以外が与えても構わない。要するに、子どもにとっていつも自分を受け止めてくれる「特定の誰か」と「安定した信頼関係が築ける」ことが大事なことです。こうして築かれた愛着関係は、その後の自立心や社会性の発達にも影響します。乳児期にしっかりとした愛着形成を築くことは、その後の対人関係の基盤となるため非常に重要です。

親性脳の発達に伴う、私たちの「脳の変化」

― 大人が親性脳を発達させることは、子どもの発達にとっても好ましい環境につながるのですね。ところで、親性脳が発達すると、私たちの脳や行動は具体的にどのように変化しますか。

 下の図は、親性脳の活動をfMRIでの計測により可視化したものです。黄色の円は、「情動的処理」といい、子どもの心の状態に対して「無意識的・反射的」に活性化する部分です。
 他方、ピンク色の部分は「メンタライジング」と呼ばれ、子どもの状況などを「客観的に・意識的」に推論し、判断することに関わる脳部位です。今、何をすべきかを論理的、合理的にイメージし、適切な行動選択をすることにつながります。この二つの脳内ネットワークがうまくつながり、機能することで、親性脳が発達していきます。
 育児経験が少ない男性は、黄色い部分の活動が弱く、赤ちゃんの様子に脳が敏感に反応しません。また、育児経験が乏しいので、今、何をしたらよいのかをイメージすることも難しくなります。赤ちゃんを泣き止ませることができないなど、自分が思ったような結果が得られないと、育児に対する動機もますます低下する、といった悪循環となるのです。

出典:Abraham, E., Hendler, T., Shapira-Lichter, I., Kanat-Maymon, Y., Zagoory-Sharon, O., Feldman, R., 2014. Father’s brain is sensitive to childcare experiences. PNAS 111, 9792–9797 を参考に明和が作成

― こうした父親の行動の積み重ねは、育児中の母親のイライラを助長してしまいますね。情動的処理とメンタライジング、お互いがうまく機能するためには何が必要でしょうか。

 育児経験を積めば積むほど、赤ちゃんの様子に敏感となり、また、何が起こっているかを前頭前野でイメージできる選択肢が増えていきます。泣いている赤ちゃんにすばやく気付き、多くの選択肢から最適な行動選択ができるようになるのです。
 こうした脳の働きは、育児に限定されない点はとても重要です。たとえば、ビジネスにおいても同様なことが脳で起こっています。育児は、予測不可能なハプニングの連続です。育児の臨機応変な課題解決力を身につけることは、仕事のパフォーマンス向上にも通じます。つまり、産休や育休は、ビジネスパーソンとしての人材価値を高める絶好の教育機会ともなるのです。育児休業制度の拡充で従業員に子育て経験を積ませることは、企業の利益にもつながるはずです。

― 日本ではむしろ、子育てと仕事は両立できないものと捉えられています。そうした背景も、男性の育児参加を阻む大きな要因になっていると感じます。

 現代の日本において、仕事では業績評価の仕組みが整っていますが、子育ての日常では、育てる側は誰かから褒められることはほとんどありません。唯一の支えは、子どもが満面のほほ笑みを見せてくれることでしょう。親としての自信が高まる大事な瞬間ですが、子どもは期待どおりのことをしてくれる存在ではありません。どんなに頑張っても、赤ちゃんが泣き止まないことなど日常茶飯事です。子育ては、期待する報酬が得にくい一方で、それを継続する意思と忍耐が必要となる営みです。共同養育により子どもを育てていた時代には、子育てをともに担ってくれる仲間から共感され、支えられることで子育ての動機を維持してきたと思います。みんなで子どもを育てる信頼関係のなかで親性脳はゆっくりと育まれてきました。それは、次の子を出産したいという動機の高まりにもつながっていたと思います。

― 子育ても認められる社会の実現は急務ですね。

 今必要なことは、子育ては、社会での自分の成功をあきらめることではなく、むしろ、自分自身を成長させ、自分の価値を高める機会であるという事実を、社会が積極的に理解することです。そのためには、企業が、従業員が、育児を通じて成長することを全力でサポートするしかけづくりが必要です。企業による男女の産休・育休制度の拡充と取得率の向上はもちろん、育児経験をふまえた個々の成長を客観的に評価する指標の導入なども、ぜひ期待したいところです。

「親性脳教育」の必要性

― 子育てを評価する仕組みとは、具体的にどのようなものでしょうか。

 経験を積めば積むほど、理想的な親性脳を発達させることができるとは限りません。何度も伝えていますが、子どもだけでなく、親も社会のなかでゆっくりと育まれるべき対象なのです。
 もっとも必要なことは、社会が親性に対する科学的な理解を深め、社会がなすべきこと、できることを具体的に議論する空気を社会全体で高めることです。私は、ある企業との協働により、個に適したかたちで親性を育む「親性教育コンテンツ」を開発しています。男女共同参画が目指され、男性の育児休暇取得にも少しずつ理解が広まっています。将来的には、企業が産休、育休をとる従業員に対して、こうした教育コンテンツをはじめ親性発達を支援する機会を積極的に提供いただきたいと思います。まさしく、産休・育休を国内研修のように位置付け、サポートする支援です。また、親性教育プログラムを初等・中等教育段階から積極的に導入することも、深刻化する日本の少子化対策としてきわめて有効に働くと思っています。

編集後記

 今回は、「親性」について前編・後編に渡りご紹介をしてきました。今回のインタビューを通じて、「親性脳」は私たちに生まれつき備わった機能ではなく、子育てに関わる行動や経験を通じて形成されるものだということ。また、そこに男女差はなく、男性も育児を繰り返し「経験」することが、親性脳の発達に重要であるということがわかりました。

 また、数ある育児行動の中でも、赤ちゃんとの愛着の形成につながりやすい「授乳」においては、「誰が授乳をするのか」ではなく、授乳する大人が、赤ちゃんにやさしく触れながら授乳をする行動自体が重要ということを改めて教えていただきました。今後、「親性」に対する認識がより深まり、子育てが認められる社会の実現につながればと思います。

※取材時はマスク着用
取材協力:京大オリジナル株式会社

かわいい赤ちゃんのお写真や、
離乳食レシピなど
ママ・パパを笑顔にする
情報を発信中!
ぜひ、フォローしてね