特集

Vol.02

ストレスチェックで分かるストレスの原因と症状

ストレス低減に貢献するGABA成分

心の健康状態を確認できるストレスチェックとは?

ストレス社会といわれる今の時代、多くの人が仕事や職場、家庭など日常生活のさまざまなシーンで強いストレスを感じています。自分自身のストレスの状況が気になる時に活用したいのが「ストレスチェック」。厚生労働省のホームページでも「5分でできる職場のストレスセルフチェック」を公開されており、各自治体や職場でもストレスチェック制度を導入するところが増えています。

ストレスチェックは、ストレスに関する質問に答え、それを集計・分析することで、自身のストレスがどのような状態にあるのかを調べることができます。自分のストレスの状態を知ることで、ストレスを溜めすぎないよう対処したり、ストレスが高い状態の場合は診察などを受けて助言をもらったりと、うつ病などのメンタルヘルスの不調を未然に防止することができます。

■5分でできる職場のストレスセルフチェック
https://kokoro.mhlw.go.jp/check/

そこで、酒谷薫先生にストレスチェックのメリットやストレスによって起こる症状、そして、上手な解消方法について伺いました。

東京大学 高齢社会総合研究機構

特任研究員(前 特任教授)酒谷 薫先生

PROFILE
神戸市出身。医学博士、工学博士、脳神経外科専門医。東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員(前特任教授)、医療法人社団醫光会理事長、日本中医薬学会理事長。1981年、大阪医科大学医学部医学科卒業。1987年、同大学院医学研究科修了(医学博士)。米ニューヨーク大学医学部脳神経外科助教授、米イェール大学医学部神経内科客員助教授、北京日中友好病院JICA専門家などを歴任。1998年、北海道大学大学院工学研究科修了(工学博士)。2003年、日本大学医学部脳神経外科学系教授、2012年、同大学工学部教授、次世代工学技術研究センター長、2019年、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授を経て現職。 現在、ストレスや認知症に関する臨床と光脳機能イメージングやAI診断法の研究開発に従事するなど、医学と工学の両分野で活躍。

ストレスチェックを行う利点は、自身の心や身体の健康状態が客観視できることです。世の中には「ストレスを感じやすい人」と「ストレスを感じにくい人」が存在します。「ストレスを感じやすい人」は日常のストレスに非常に敏感なため、ちょっとしたストレスでも心と身体の不調が起こりやすいのです。

では、「ストレスを感じにくい人」はストレスによる不調が起きないのかというとそうではありません。実はストレスを感じにくい人は、ストレスを我慢することができるため、限界に達した時に一気に心や身体に症状が現れてしまうこともあるのです。

そう考えると、ストレスを感じやすい人も感じにくい人も、ストレスを抱えた初期段階で対処することがとても重要になってきます。特に「自分はストレスとは無縁!」と思っている人こそ、実はストレスフルな状態であることもしばしばあるので、こういったチェック方法を用いて客観的に判断することはとても大切です。

「もの忘れがひどくなった」もストレスが原因!?不調のサインを見逃さないで

ストレスにさらされると、心や身体にさまざまな不調のサインが現れます。その症状は「心理」「身体」「行動」の3つに分類されます。

心理面でのストレス反応は、「イライラ」「不安」「元気が出ない(活気の低下)」「抑うつ(気分の落ち込み、興味・関心の低下)」など。身体面では「頭痛」「肩こり」「腰痛」「目の疲れ」「動悸や息切れ」「胃痛」「食欲低下」「不眠」など。そして、行動面では「仕事でのミスや事故」「ヒヤリハットの増加」「飲酒量や喫煙量の増加」などが挙げられます。

現代人がストレスを感じるのは多くの場合、家族や友人、職場などの人間関係や仕事に問題が起きた時。そして、日常的に感じる小さなモヤモヤが積もりに積もって、いつしかそれが大きなストレスになった時です。最初は「なぜ、あんなことを言うのだろう」「なぜ、うまくいかないのだろう」と、イライラしたり、怒りっぽくなったり、不安を強く感じたりします。

しかし、これが長く続くと、次第に自分に対して否定的になったり、気分が沈んだり、人に会いたくない、出社したくないといった抑うつ症状が出てくるのです。つまり、最初はその状況に対して心が戦おうとするのですが、長引くほどに心が疲れだし、ネガティブな気分になっていきます。ここまでいくと、うつ病の入り口にさしかかっていることになるので要注意です。

身体面でいえば、脳外科に来院する患者の中には頭痛に悩まれている人が多いのですが、その原因がストレスであることが多々あります。身体的・精神的ストレスが関連する頭痛は「筋緊張性頭痛」と呼ばれ、頭が締め付けられるような痛みや後頭部がズキズキするような痛みが起こります。

また、頭痛のほかに、歩いているとふわふわした感じがする動揺性のめまいや、目がしょぼしょぼするといった症状も伴います。この筋緊張性頭痛はストレスがあって初めて起きるので、よく脳腫瘍やくも膜下出血といった脳の怖い病気だと思われて慌てて来院されることが多いのですが、トラブルの原因が実はストレスだったということも少なくありません。

そのほか、「なかなか眠れない」「夜中や朝方によく目が覚める」「朝、なかなか起きられない」といった睡眠障害もストレスによる代表的な症状です。

そして、ストレスで引き起こされる記憶障害、いわゆる「もの忘れ」も注意したいところ。行動面における「仕事でミスが増えた」「ヒヤリハットが増加した」というのは、もの忘れによるものともいえるでしょう。ストレスがあると副腎皮質からコルチゾールというホルモンが分泌されます。通常、コルチゾールはストレスから身体を守る作用がありますが、ストレスにさらされる時間が長くなると、コルチゾールが分泌し続けることで記憶を司る脳の海馬の機能を低下させてしまうことに。「加齢でもの忘れがひどくなった」「疲れから注意散漫になっている」と感じていたことが、実はストレスが関連する場合もあるので、「もしかしてストレスが原因かも?」と、一度疑ってみることも肝心です。

ストレスでこんな症状が現れることも…!

適切なリラクゼーションにより、「ストレス脳」が「リラックス脳」へ

人には、「ストレスを感じやすいタイプ」とそうでないタイプがあります。それが大きく関わっているのが、大脳の一部である前頭葉。人間がものを考えたり、感じたり、判断したりする働きを司るところで、あるものごとがストレスかどうかを判断する「ストレスセンサー」の役割も果たしています。

私は、光で脳機能を計測する装置を用いて、ストレスの脳に対する影響やストレスを緩和する方法について脳科学的な研究を行っています。それで分かったことは、ストレスを与えると、脳の前頭葉の活動が活発になり、血流が増えるのです。さらに興味深いことに、ストレスがある時は前頭葉の右側が強く活動して不安度も強くなり、その一方で、左側が優位に活動する場合はストレス反応が弱いことが分かりました。つまり、ストレスによる症状(心臓がドキドキしたりする自律神経系やストレスホルモンの分泌量など)は、前頭葉の左右で違いがあるということ。そのことから、右側の反応が強い場合を「ストレス脳」、左側の反応が強い場合を「リラックス脳」と呼んでいます。

そこで、「ストレス脳」の人を集めて、1カ月間心地よい香りを嗅いでもらう実験をしたところ、ストレス脳がリラックス脳へと変化し、顔の脂性肌といったストレスによる症状も改善しました。つまり、ストレスが溜まっているストレス脳の人でも、適切なリラクゼーションを行うことにより、リラックス脳へと変わり、ストレスによる症状が改善できるのです。

前頭葉左優位の「リラックス脳」と右優位の「ストレス脳」
前頭葉に負荷をかけ、特殊な装置を使って血流の変化を測定した正面からの画像。
ストレスがかかって血流が増すにつれ、画像の色が赤くなる(酒谷先生提供)。

ストレスとうまく付き合うための対策方法とは?

現代社会はさまざまなストレスから逃れることが難しいものの、自身のストレスレベルや不調のサインを自覚できたなら、上手に解消するなど、ストレスとうまく付き合う方法を取り入れることはできます。

私のストレス対策といえば、ジムで体を動かして汗を流し、お風呂に入ること。そして、ビールを飲みながら、好きなDVDや映画を観ることです。実はこの中にリラクゼーションのコツがあります。

先ほど過度なストレスが海馬にダメージを与えるという話がありましたが、その海馬は生涯にわたり神経細胞を生み出していることが近年分かってきています。海馬の新生を活発にするには運動が有効なので、ウォーキングなどの適度な運動は海馬をストレスから守ることができ、ストレス解消にも最適です。

運動が苦手な人なら、朝日を浴びるだけでも効果があります。朝日を浴びると“ハッピーホルモン”と呼ばれるリラクゼーション効果のある脳内物質「セロトニン」を分泌しやすいのです。

また、脳をリラックスさせるためには身体をリラックスさせることが大切なので、ゆっくりと湯船に浸かることをおすすめします。この時に入浴剤などを使ってみるのもいいでしょう。いい香りを嗅ぎながら入浴すればリラクゼーション効果が倍増することも期待できます。また、映画などを観て、笑ったり泣いたり、本を読んだり、心地よい音楽を聴くこともストレス対策に有効です。

安眠効果が得られるGABA成分を上手に生活に取り入れよう!

さまざまなストレス対策がある中、特に有効とされているのが「睡眠」です。そして、質の高い眠りへと導く一つの方法として、注目したいのがGABA成分。GABA成分を摂取することにより、深い眠りに入りやすく、すっきりと目覚められるなど、睡眠の質の向上に役立つ機能があることが報告されています。

睡眠不足が続くと、通称「ストレスホルモン」と呼ばれる副腎皮質ホルモン「コルチゾール」の分泌量が増えてしまい、さらに眠れないことが新たなストレスになることも。その上で、快眠につなげる一つの方法として、GABA成分を摂取するのもよいでしょう。

GABA成分は神経伝達物質と呼ばれる脳の活動を調節する物質の一種で、脳の興奮を抑える作用があります。これまでの研究からGABA成分を服用すると、ストレスが低減し、安眠効果があると報告されています。

ストレスと睡眠は密接に関連しており、コインの表裏のようなもの。ストレスが低減できるとよく眠れるし、よく眠れるようになるとストレスも軽くなります。そのためにも日頃から睡眠を大切にするなど心身をケアすることを心がけて、上手にストレスと付き合ってください。

GABA成分が睡眠におよぼす作用

①GABA成分を摂取
②深い眠りの「ノンレム睡眠」が増加し、脳を十分に休ませられる
③朝スッキリ起きられるなど、睡眠の質が向上