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GABA成分の用途開発の可能性

江崎グリコ株式会社 商品技術開発研究所
研究員 古谷 正樹

PROFILE

2020年4月江崎グリコ株式会社入社。大学・大学院では、有機合成化学を専攻し産業分野で使用される化合物の研究に明け暮れる。就職活動では、大好きなチョコレートに携わる仕事をしたいと考え、さまざまなお菓子メーカーの中でもチャレンジ精神が旺盛な印象のあった江崎グリコへ。現在は、商品技術開発研究所のチョコレート・ビスケットグループに所属。めざしているのは、人々が明日をがんばる手助けになるようなお菓子づくり。

江崎グリコにおけるGABA成分研究のきっかけ

江崎グリコの商品技術開発研究所は、商品づくりのための基礎研究や応用研究、商品技術開発などを行う部門です。私はその中のGABA成分を研究するグループに所属し、GABA成分の健康機能を広く一般の方に知っていただくための研究活動を行っています。

江崎グリコがGABA成分の研究をスタートしたのは2003年ごろ。「チョコレートを食べるとホッとする」という体感に注目し、その正体を調べる研究に着手したのが始まりです。そしてたどり着いたのが、カカオに含まれるアミノ酸の一種「γ-アミノ酪酸」でした。この成分は、γ-アミノ酪酸の英語表記Gamma-Amino Butyric Acidの頭文字をとってGABA成分と呼ばれています。

GABA成分とは?

GABA成分というと人工的なイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、カカオのほか、トマトや発芽玄米など多くの野菜・穀物にも含まれている天然に存在する成分です。鎮静物質として、人の脳内にも存在しています。食品などを食べてGABA成分を摂取すると、小腸で吸収されて血中に取り込まれ、体内にあるGABA成分の受容体とくっつくことで、自律神経の副交感神経を優位にする働きがあると言われています。副交感神経は、夜間などリラックスしているときや睡眠時に体を休息させる役割。副交感神経が優位になることで、ストレスの低減や睡眠の質の改善につながると考えられています。

江崎グリコは、このGABA成分が持つストレス低減や睡眠の質が高まるなどの機能性に着目し、2005年にGABA成分を配合した商品の販売を開始。2016年には機能性表示食品としての届け出が受理されました。

実は、日本のさまざまな企業から消費者庁へ寄せられる機能性表示食品の届け出のうち、最も多いのはGABA成分に関する届け出で、年間685件にものぼります(2022年5月17日時点)。いかに世の中でGABA成分が注目されているかが分かります。

研究最前線「睡眠の質とGABA成分」

私たちが行ってきた研究のひとつ、「睡眠の質とGABA成分」に関する実証実験をご紹介します。

人は副交感神経が優位になり、リラックスすることで眠りにつきます。ところが、眠る直前まで仕事をしたり、考え事をしたりして、興奮状態が続き交感神経が優位になっていると、うまく眠ることができません。そんなときは、お風呂に入ったり、ヨガをしたりして、副交感神経のスイッチを入れてやることで、眠りにつきやすくなります。実は、GABA成分を摂取することでも、お風呂やヨガと同様の副交感神経のスイッチを入れる効果があるのです。そんなGABA成分の魅力を科学的な根拠に基づいて、分かりやすく多くの人に伝えたいと考え、以下のような実験を行いました。

実験方法

就寝前に、GABA成分100mgを摂取するグループ、クラシック音楽を聴くグループ、何もしないグループをつくり、実験前後で、ストレスを感じているときに分泌されるホルモン「クロモグラニンA」の唾液中の値を計測し、比較しました。

GABA成分100mgを摂取する
グループ

クラシック音楽を聴く
グループ

何もしない
グループ

この実験の結果、何も食べなかったグループと比較してGABA成分を摂取したグループでクロモグラニンAの減少が確認されました。また、睡眠に関するアンケートを実施したところ、起床時のすっきり感が改善したとも確認されています。

この実験は睡眠に関するものでしたが、今後はGABA成分とストレスとの関係に関しても、効果を分かりやすくお伝えできるような研究を進めていきたいと考えています。

GABA成分をおいしく摂取していただくために

私たちは食品メーカーですので、食品としてのおいしさも非常に重視しているポイントで、「おいしいものにGABA成分の機能性がプラスされている」のが理想です。ただ、GABA成分は、えぐみが強く、食べにくいのです。なんとかおいしく食べていただくために、GABA成分の味を感じにくいよう味や香りの配合を調整して試作品づくりを重ね、研究開始から2年後の2005年に商品化にこぎつけました。商品化後も、時代のニーズに合わせたおいしさを追求するため、途切れることなく味わいの研究を継続。現在も常に進化を続けています。

また、食べるシーンに適した商品形状の工夫も行っています。仕事中や勉強中にデスクで召し上がっていただくことを想定し、手が汚れにくいように表面をコーティングしたり、食べているときに電話がかかってきても口の中で邪魔になりにくい小さなサイズにしたりなど、商品技術開発研究所での研究がベースとなって商品づくりが進められています。

GABA成分のこれから

江崎グリコでは、今後もGABA成分の研究と商品開発を通して、今ある商品では解決できないような人々のお悩みを解決していきたいと考えています。研究中のことが多いためお伝えできないこともありますが、例えば、GABA成分の配合量の調整や、GABA成分とほかの成分を組み合わせるアプローチから、人々に役立つ機能の研究を推進しています。

個人的には、ストレスを抱えやすい今の社会において、GABA成分はストレスを減らして人々の毎日を前向きにするツールになりうると考えています。これからももっともっと多くの方にGABA成分を活用いただくため、現在取り組んでいるGABA成分の魅力を知っていただく活動をさらに拡大していきたいと思います。